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汽笛一声（いっせい）新橋を はや我（わが）汽車は離れたり 愛宕（あたご）の山に入りのこる 月を旅路の友として |
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右は高輪（たかなわ）泉岳寺 四十七士の墓どころ 雪は消えても消えのこる 名は千載（せんざい）の後までも |
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窓より近く品川の 台場も見えて波白く 海のあなたにうすがすむ 山は上総（かずさ）か房州か |
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梅に名をえし大森の すぐれば早も川崎の 大師河原（だいしがわら）は 程ちかし 急げや電気の道すぐに |
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鶴見神奈川あとにして ゆけば横浜ステーション 湊を見れば百舟（ももふね）の 煙は空をこがすまで |
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横須賀ゆきは乗換と 呼ばれておるる大船の つぎは鎌倉鶴ヶ岡 源氏の古跡（こせき）や尋ね見ん |
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八幡宮（はちまんぐう）の石段に 立てる一木（ひとき）の 大鴨脚樹（おおいちょう） 別当公暁（くぎょう）のかくれしと 歴史にあるは此蔭（このかげ）よ |
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ここに開きし頼朝（よりとも）が 幕府のあとは何かたぞ 松風さむく日は暮れて こたえぬ石碑は苔あおし ・・・・・・以下メロ略 |
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北は円覚（えんがく） 建長寺（けんちょうじ） 南は大仏（だいぶつ）星月夜 片瀬 腰越 江ノ島も ただ半日の 道ぞかし |
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汽車より 逗子（ずし）を ながめつつ はや横須賀につきにけり 見よやドックに集まりし わが軍艦の壮大を |
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支線をあとに 立ちかえり わたる相模の 馬入川（ばにゅうがわ） 海水浴に 名を得（え）たる 大磯見えて 波すずし |
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国府津（こうづ）おるれば 電車あり 酒匂（さかわ）小田原とうからず 箱根八里の 山道も あれ見よ雲の 間より |
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いでてはくぐる トンネルの 前後は山北 小（お）山駅 今も忘れぬ 鉄橋の 下ゆく水の おもしろさ |
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はるかに見えし 富士の嶺（ね）は はや我がそばに 来たりたり 雪のかんむり 雲の帯（おび） いつもけだかき 姿（すがた）にて |
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ここぞ御殿場（ごてんば） 夏ならば われも登山を こころみん 高さは 一万数千尺 十三州も ただひと目 |
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三島は近年 ひらけたる 豆相（ずそう）線路の わかれみち 駅にはこの地の 名をえたる 官幣大社の 宮居（みやい）あり |
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沼津の海に 聞こえたる 里は牛伏（ぶせ） 我（が）入道 春は花咲く 桃の頃 夏は涼しき 海のそば |
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鳥の羽音に おどろきし 平家の話は 昔にて 今は汽車ゆく 富士川を 下るは身延（みのぶ）の 帰り舟 |
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世に名も高き 興津鯛（おきつだい） 鐘の音ひびく 清見寺（せいけんじ） 清水にづづく 江尻（えじり）より ゆけば程なき 久能山 |
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三保の松原 田子の浦 さかさにうつる 富士の嶺を 波にながむる 舟人（ふなびと）は 夏も冬とや 思うらん |
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駿（すん）州一の 大都会 静岡いでて 安倍川を わたればここぞ 宇都の谷（や）の 山きり抜きし 洞（ほら）の道 |
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鞘（さや）より抜けて おのずから 草なぎはらいし 御剣（つるぎ）の みいつは千代に 燃ゆる火の 焼津（やいづ）の原は ここなれや |
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春さく花の 藤枝も すぎて島田の 大井川 むかしは人を 肩（かた）にのせ 渡りし話も ゆめのあと |
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いつしか又も 暗（やみ）となる 世界は夜か トンネルか 小（さ）夜の中山 夜泣き石 問えども知らぬ よその空 |
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掛川 袋（ふくろ）井 中泉 いつしか後（あと）に はやなりて さかまき来る 天竜の 川瀬（せ）の波に 雪ぞ散（ち）る |
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この水（みな）上に ありと聞く 諏訪（すわ）の湖水の 冬げしき 雪と氷の かけ橋を わたるは神か 里人（さとびと）か |
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琴（こと）ひく風の 浜松も 菜種（なたね）に蝶の 舞阪も 後ろにはしる 愉快（ゆかい）さを うたうか磯（いそ）の 波のこえ |
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煙を水に 横たえて わたる浜名の 橋の上 たもと涼しく 吹く風に 夏ものこらず なりにけり |
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右は入海 しずかにて 空には富士の 雪白し 左は遠州灘（えんしゅうなだ） 近く 山なす波ぞ くだけ散（ちる）る |
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豊橋おりて 乗（の）る汽車は これぞ豊川 稲荷（いなり）道 東海道にて すぐれたる 海のなめは 蒲郡（がまごおり） |
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見よや 徳川家康の 起りし土地の 岡崎を 矢矧（やはぎ）の橋に 残れるは 藤吉郎の ものがたり |
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鳴海（なるみ）しぼりの 産地なる 鳴海にちかき 大高を 下りておよそ 一里半 ゆけば昔の 桶狭間（おけはざま） |
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めぐみ熱田の 御社（みやしろ）は 三種の神器（じんぎ）の 一つなる その草薙（くさなぎ）の 神つるぎ あおげや同胞（どうほう） 四千万 |
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名だかき金の しゃちもこは 名古屋の城の 光なり 地震（じおしん）の話 まだ消えぬ 岐阜（ぎふ）の鵜飼（うかい）も 見てゆかん |
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父やしないし 養老（ようろう）の 滝（たき）はいまなお 大垣を 三里へだてて 流（なが）れたり 孝子の名誉（めいよ）と もろともに 見てゆかん |
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天下の旗（はた）は 徳川に 帰（き）せしいくさの 関ヶ原 草むす屍（かばね） いまもなお 吹くか胆吹（いぶき）の 山おろし |
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山はうしろに 立ち去りて 前に来（き）たるは 琵琶（びわ）の海 ほとりに沿いし 米原（まいばら）は 北陸道の 分岐線（ぶんきせん） |
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彦根に立てるは 井伊の城 草津にひさぐ 姥ヶ餅（うばがもち） かわる名所も 名物も 旅の徒然（とぜん）の うさばらし |
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いよいよ近く 馴（な）れくるは 近江（おうみ）の海の 波の色 その八景も 居ながらに 見てゆく旅の 楽しさよ |
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瀬多の長橋 横に見て ゆけば石山 観世音（かんぜおん） 紫式部が 筆（ふで）のあと のこすはここよ 月の夜に |
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粟津（あわず）の松に こととえば 答えがおなる 風の声 朝日将軍 義仲（よしなか）の ほろびし深田は いずかたぞ |
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比良（ひら）の 高嶺は 雪ならで 花なす雲に かくれたり 矢走（やばせ）に急ぐ 舟の帆も 見えてにぎおう 波の上 |
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堅田におつる 雁（かり）がねの たえまにひびく 三井の鐘（かね） 夕ぐれ寒き 唐崎（からさき）の 松には雨の かかるらん |
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昔ながらの 山ざくら におうところや 滋賀の里 都のあとは 知らねども 逢（おう）坂山は そのままに |
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大石良雄が 山科（やましな）の そのかくれ家（が）は あともなし 赤き鳥居の 神さびて 立つは伏見の 稲荷山（いなりやま） |
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東寺（とうじ）の塔（とう）を 左にて とまれば七条 ステーション 京都 京都と 呼びたつる 駅夫（えきふ）の声も 勇ましや |
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ここは桓武（かんむ）の 帝（みかど）より 千有余年の 都の地 今も雲井の 空高く あおぐ清涼 紫宸殿（ししんでん） |
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東にたてる 東山（ひがしやま） 西にそびゆる 嵐山（あらしやま） かれとこれとの 麓（ふもと）ゆく 水は加茂川 桂川（かつらがわ） |
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祇園（ぎおん）清水（きよみず） 知恩院（ちおんいん） 吉田 黒谷（くろだに） 真如堂（しんにょどう） ながれも清き 水上（みなかみ）に 君が世まもる 加茂の宮 |
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夏は納涼（すずみ）の 四条橋 冬は雪見の 銀閣寺＜ぎんかくじ） 桜は春の 嵯峨御室（さがおむろ） 紅葉は秋の 高雄山（たまおやま） |
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琵琶湖を引きて 通したる 疎水（そすい）の工事は 南禅寺 岩切り抜きて 舟をやる 知識の進歩も 見られたり |
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神社仏閣 山水の 外（ほか）に京都の 物産は 西陣織の 綾（あや）にしき 友禅染（ゆうぜんぞめ）の 花もみじ |
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扇（おおぎ）おしろい 京都べに また加茂川の 鷺（さぎ）しらず みやげを提（さ）げて いざ立たん あとに名残（なごり）は のこれども |
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山崎おりて 淀（よど）川を わたる向うは 男山 行幸（じょうこう）ありし 先帝の かしこきあとぞ しのばるる |
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淀の川舟 さおさして 下りし旅は 昔にて またたくひまに 今はゆく 煙たえせぬ 陸（くが）の道 |
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送り迎うる 程もなく 茨木（いばらき）吹田（すいた） うちすぎて はや大阪に つきにけり 梅田はわれを 迎えたり |
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三府の一（いつ）に 位（くらい）して 商業繁華（しょうぎょうはんか）の 大阪市 豊太閤（ほうたいこう）の きずきたる 城に師団は おかれたり |
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ここぞ昔の なにわの津 ここぞ高津（たかつ）の 宮のあと 安治川口（あじかわぐち）に 入る舟の 煙は日夜 絶えまなし |
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鳥もかけらぬ 大空に かすむ五重の 塔のかげ 仏法最初の 寺ときく 四天王寺は あれかとよ |
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大阪出てて 左右 菜種ならざる 畑（はた）もなし 神崎川の 流れのみ 浅黄（あさぎ）にゆくぞ 美しき |
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神崎よりは のりかえて ゆあみにのぼる 有馬山 池田 伊丹と 名にききし 酒の産地も とおるなり |
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神戸（こうべ）は五港の 一つにて あつまる汽船の かずかずは 海の西より 東より 瀬戸内がよいも まじりけり |
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磯（いそ）にはながめ 晴れわたる 和田のみさきを 控えつつ 山には絶えず 布引（ぬのびき）の 滝見に人も のぼりゆく |
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七たび生まれて 君が代を 守るといいし 楠公（なんこう）の いしぶみ高き 湊川（みなとがわ） ながれて世々の 人ぞ知る |
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おもえば夢か 時の間に 五十三次 走り来て 神戸の宿に 身をおくも 人につばさの 汽車の恩（おん） |
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明けなばさらに 乗りかえて 山陽道（さんようどう）を すすままし 天気はあすも 望（のぞみ）あり 柳（やなぎ）にかすむ 月の影 |